LWIR SLSサーマルカメラの長所

赤外線サーマルカメラは、研究や科学の試験に必要な熱の測定法に新たなコンセプトをもたらしました。 近年の測定とカメラ電子技術における進歩は目覚ましく、解像度、スピード、および感度の限界を大きく押し広げました。 これにより、エアバッグの高速熱測定、ミクロンスケールでのエレクトロニクスの故障解析、目には見えないガスの光学的ガスイメージングなど、最も難しい熱試験の多くの課題を解決することが可能になります。 しかし、サーマルイメージングに大きな進歩が見られたのは、タイプIIひずみ層超格子(SLS)が最近になって導入されてからのことです。 この新しい検出器材料は、読み出し専用集積回路(ROIC)およびカメラの電子回路が果たす役割に匹敵する程の性能をサーマルカメラにもたらすものです。 市販のサーマルカメラにSLSを組み込むことで、速度、温度範囲、均一性、安定性が大幅に向上し、類似の検出器材料よりも安価な新しい長波IRソリューションを提供します。

スピードの向上

SLSは長波と中波両方の赤外線帯域で動作しますが、LWIR帯域にのみフィルタリングすると最良のパフォーマンスを発揮します。 実際、他のサーマルカメラ材料と比べたSLSの主な長所の1つは、積分時間が短くスナップショットを素早く取得できることが挙げられます。 表1および2は、性能指標で見たLWIR SLSとMWIRインジウムアンチモン(InSb)の差異を示したものです。 1列目の最初の温度範囲を見ると、SLSはMWIR InSb検出カメラの同じ範囲と比べてスナップショット速度が12.6倍も速くなっているのが分かります。

スナップショット速度を速くできれば、高速ターゲットの動きを止めてより正確に温度を測定できます。 積分時間が遅すぎると、取得した画像がぼやけて温度の指示値に影響が出る可能性があります。 同様に、スナップショット速度が速いほどフレームレートも速くなります。 これに関してInSbや他の検出器材料が必要とする長い積分時間が原因となって、検出器本来の最大値よりカメラのフレームレートが低くなってしまうケースを非常に多く見受けます。 例えば、1000フレーム/秒で640x512の画像を取得できるカメラがあり、それは1.2msの積算時間が必要な帯域で動作するものとします。 しかしこのカメラは、その積分時間の長さのために本来可能なフルフレームレートでの撮影ができないでしょう。 これは、急激に発熱するターゲットを撮影するときに問題となる可能性があります。 サンプリングが遅いと部品の熱過渡特性の把握が不正確になることがあり、エレクトロニクス基板の起動サイクルにおける急激な温度上昇などはおそらく見逃されてしまうでしょう。

広い温度帯

LWIR SLSサーマルカメラの第2の長所は温度帯が広いことです。 表1では1つの積分時間に対応したLWIR SLSカメラの温度範囲が-20℃〜150℃から始まっています。 MWIR InSbで同じ温度帯を実現するには、それぞれ異なる温度範囲に対応した3つの積分時間を循環(スーパーフレーム)する必要があります。 -20℃〜150℃の温度範囲にスーパーフレームするために3つの温度範囲を循環させると、カメラがキャプチャした3つのフレームにつき1つのスーパーフレーム画像しか得られません。 つまり、カメラの校正時には3倍の作業が必要になり、全体のフレームレートが1/3に減少することになります。

表1と表2をもう一度見てみると、考慮すべきもう1つのポイントがあります。LWIR SLSカメラを使うと、高い温度範囲を測定するのにNDフィルタを必要としないことです。 評価に供したSLSカメラでは、NDフィルタを必要とする前に最大650°Cまで測定が可能でしたが、MWIR InSbカメラではNDフィルタを必要とする前に最大350°Cまでしか測定できません。 これは部分的には、LWIR帯域で動作するSLS対で動作するInSbの関係と言えます。

これを説明するために、図1のグラフを見てみましょう。図は30℃の理想的な黒体のスペクトル放射強度を示したものです。 曲線の下の領域はその波長帯域内の強度を表しており、それはMWIR帯域よりもLWIR帯域ではるかに強くなっています。 図2を見ると、対象物が発熱するにつれて、代表的なスペクトル放射曲線のピークが左にシフトし、右にテール・オフすることが分かります。 LWIR帯域における強度の変化は、温度全域にわたって、MWIR帯域で起こる劇的な変化よりも穏やかです。 そしてこれが、MWIR InSb検出器との比較で、LWIR SLS検出器が所与の積分時間に対する過露光または過小露光を回避できる理由なのです。 この時、MWIR帯域における強度の変化がかなり大きいことに注目してください。大きいがために、対象物が発熱するとカメラは1回の積分時間ですぐに飽和してしまうのです。

要約すると、SLSを使用することで、ターゲットが広い温度範囲ですぐに発熱する難しいアプリケーション、例えば燃焼研究などに取り組むことが可能になります。

しかし、LWIR帯域で動作することだけがSLSに優位性をもたらす唯一の要因ではありません。 LWIR水銀カドミウムテルル(MCT)検出器を見ると、MWIR InSb検出器と同様に、それらの温度範囲も限られていることが分かります。 さらに、LWIR MCTカメラは、積分時間ごとの温度測定範囲が狭く、また信号をカットするNDフィルタを使用せずに測れる最高温度に制限がある点にも気付くはずです。

低価格で実現した均一性と安定性

他のLWIR冷却型カメラオプションとの比較において、LWIR SLSカメラの優れた機能の1つは、劇的に向上した均一性と安定性です。 LWIR MCT検出器は一般的に均一性および安定性が良くありません。 このためユーザーはLWIR MCTカメラを起動するたびに、実行された最後の均一性補正を更新する必要があります(図3参照)。

これはフィールドベースのアプリケーションでは問題となります。そのような環境には、ゲイン、オフセット、および不良ピクセルマップなどの更新を必要とするような機器は向いていないのです。 そのようなアプリケーションには、テスト室に置いたカメラを遠隔で制御すること、また行政機関の試験場において爆発ゾーンの外から制御することも含まれます。 これに対し、LWIR SLSはMWIR InSbと同じように動作します。つまり、起動して試験を始めるだけで良いのです(図4参照)。 ラボで実施した均一性補正は、カメラ内の内部NUCフラグを使用した1点オフセットの更新を除き、特に画像の均一性更新をしなくても、現場でも同様に機能します。 NUCにはまた、長期間にわたる何回もの冷却に対してもよく持ちこたえる耐久性があります。 この記事のために試験したカメラは実のところ、1年前に遡る最初の現場投入以来新規のNUCを必要としませんでした。

SLSカメラはMWIR InSb対応カメラよりも費用がかかりますが、同等のLWIR MCTカメラと比べて40%も安価です。 したがって、ユーザーのアプリケーションが、冷却型LWIR検出器カメラだけが提供できる短い露光時間、広い温度範囲、またはスペクトル特性を必要とする場合、SLSを選択することで、現行の冷却型LWIR MCT検出器に比べ、コスト面、均一性の面での優位性が得られます。

結語

SLS LWIR検出器は性能/価格スペクトルにおいてニッチな需要に最適です。現在のLWIR MCTカメラよりも優れた均一性、安定性、および価格とともに、MWIR InSbおよびLWIR MCT材料よりも短い積分時間および広い温度帯を提供します。 アプリケーションが性能と価格の特別なブレンドを必要とするとき、SLS LWIR検出器は矢筒に入れておくべき偉大な矢となるのです。